光のもとでⅠ
「悪い……」
 そう言うと、まだ涙に濡れた目で翠が俺を見た。
「昨日、怒鳴って悪かった……。それから、今、泣かせて悪い……」
 意識しなくても手に力がこもる。
「もうこんなこと訊かないで。こんな怖いことは考えたくないよ」
「……訊かずにはいられなかったんだ」
「……どうして?」
「俺も不安だったから、訊かずにはいられなかった。でも、もう訊かない。その代わり、俺が空回りしそうになったら翠と話したいんだけど。翠じゃないとだめなんだ」
 翠が空回るとき、誰に手を伸ばしても救われると思う。
 でも、俺が空回るとき――それは翠じゃないとだめなんだ。
 翠にしか助けてもらえない。
 名前の呼び方やそんなもので翠との距離は変わらない。
 それを今知ったから、この手を一度放すけど、不安にはならないでほしい。
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