光のもとでⅠ
「その前にこれは全部飲もうね?」
 気づけば目の前に飲みかけのカップを差し出されていて、私は秋斗さんの右手に触れないようにそれを支える。
 受け取ろうとしたのだけれど、秋斗さんがカップを離してはくれなかったから、そのまま飲む。
 常温よりも少しだけあたたかいラベンダーティー。
 気持ちを落ち着けるのにはちょうどいいお茶と温度のはずなのに、その役割を全然果たしてくれない。
 一気飲みしたらお茶が気管に入ってしまって少し咽た。
 咳が止ってすぐ、「では寝ます」と宣言したら、カタカナ表記みたいなカチコチの声と平坦すぎるイントネーションだった。
 秋斗さんのクスクス笑いが聞こえてくる前にソファへ退避。
 自分の姿が秋斗さんの目に入っていることすら恥ずかしく思える。
 横になると、すぐにお布団を頭からかぶった。
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