光のもとでⅠ
 歌のお姫様が私のために歌ってくれている。
 空気を伝ってくる音がそれを教えてくれる。
 本当に、なんて人なんだろう……。
 あんな痛い気持ちを抱えているのに、抱えたままなのに、この歌詞を私のために歌えるなんて……。
 感情移入せずにはいられないような歌詞なのに、今、私に向けられている眼差しは慈愛――。
 それなら、私もこの曲は茜先輩のことを思って歌おう。
 茜先輩のためだけに……。
 茜先輩の声と自分の声が重なると鳥肌が立つ。
 練習のときやリハーサルのときとは比べ物にならない。
 茜先輩と歌う歌はどんどん高みへと引っ張り上げられるから、怖いなんて思う余裕がない。
 そんな暇がない。
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