光のもとでⅠ
「俺はね、君が隣にいてくれたらそれだけで満足なんだ」
 彼女は何も答えない。
「何か話してくれないと、俺はこのまま甘いことばかり言い続けるけどいいのかな?」
「やっ、それは困りますっ……」
 両手を前に突き出して拒否された。 
「くっ、全力で拒否か」
 時々すごく困るし何を考えているのか理解不能に陥りもする。けれど、彼女のリアクションすべてが愛おしい。
「前にも話したけど、付き合うからって何かが変わるわけじゃない。今までと一緒でいいんだ。森林浴に行ったり散歩をしたり、時々翠葉ちゃんの手料理が食べられたりお茶を飲んだり。そういう時間を一緒に過ごせるだけで幸せなんだよ」
「……本当に?」
 不安そうに訊いてくるその目に頷いてみせる。
「君は何も返せないって言うけれど、ちゃんと返してもらってる。ほかにも色々と返してもらえるものはあるんだけど、それはいつか、ね」
「……え?」
 何かあるのなら知りたい、そんな目で見られた。でも……。
「今はわからなくていいよ。そのうち教えてあげるから」
 と、彼女の艶やかな髪を弄ぶ。
 本当は色々したいよ。でも、今は君の体調が一番だ。
 何よりも、今彼女を抱いてしまったら、俺が溺れきってしまうだろう。それこそ、仕事どころではなくなってしまう。
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