光のもとでⅠ
「これこそあり得ない……」
 環が携帯のディスプレイに視線を移すと、
「おっ、普通に戻ったじゃん」
「いや……翠葉、秋斗先輩とふたりでいてこんなに平常心でいられるほど男に免疫ないから」
「……なるほど。それ、間違いなく秋斗先輩が何か仕掛けたんじゃね?」
「やっぱそう思う?」
「……システムに何か組み込むのなんて秋斗先輩にとっちゃ朝飯前だろ?」
 そうだよなぁ……。
「翠葉、大丈夫かな……」
 実のところ、今すぐにでも電話して確認したいくらいだ。でも、ふたりは付き合ってるんだ。俺が口を出すことじゃない。
 わかっていても心配なのはどうしてか――。
「蒼樹、携帯前に戸惑ってんの?」
 会話に入ってきたのは聖和(きよかず)。先日カフェで簾条さんに声をかけて断られた人間だ。
「みどりは? すいは? って女? なんなら俺が通話ボタン押してやろうか?」
「いや、いい……ショック受けたくないからやめておく」
 携帯をしまおうとしたら、
「何? 修羅場になりそうなん? 面白いからその話聞かせろよ!」
「いやさ、こいつの妹――」
 と、喋りかけた環の口を押さえる。そして、ノートパソコンはすぐさまディスプレイを閉じた。
 聖和に見られた日には紹介しろとうるさく言われるに決まっている。秋斗先輩よりも性質が悪い。
 今日の帰りは何がなんでも早く帰ろう――。
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