光のもとでⅠ
 どのくらい経った頃か、携帯が鳴り出した。
 蔵元や若槻ではないだろう。
 ディスプレイを見ればマンションの住民から。
「はい」
『美波ですー! 今から行くから玄関開けておいて? インターホンだと翠葉ちゃん起こしちゃうかもしれないし』
「わかりました。ストッパー噛ませておきます」
 このマンションのコンシェルジュ統括者、崎本さんの奥さんだ。
 栞ちゃんに頼まれてうちにいる間の翠葉ちゃんの様子を見にくることになっていた。
 俺、そこまで危険人物扱いされなくちゃいけないのかな?
 玄関のドアにドアストッパーを噛ませ、仕事部屋に戻る前に寝室の様子を見にいく。と、彼女は胸の上でお行儀よく手を組み、真上を向いて寝ていた。
「まるで眠り姫だな……」
 つい笑みがもれる。
 薬の副作用で寝てしまうと寝返りすら打たないのだろうか。
 そんなことを考えながら仕事部屋に戻った。
 表通路から拓斗の賑やかな声が聞こえてくる。
「タク、少し静かにっ! 寝てる人が起きちゃうでしょ?」
「はーい」
 この春小学一年生になった息子の拓斗も一緒のようだ。
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