光のもとでⅠ
「ツカ、サ……?」
 翠はゆっくりと俺を見上げ凝視する。
「あまり見るな」
 赤面している自覚はある。
 さっきから、夜気と肌の体温差を異様なほどに感じていた。
 そんな自分を真っ直ぐに見つめる視線に耐え切れず、腕を解き、代わりに手をつないで歩くことにした。
「冷静なら、あの場でキスなんてしていない」
 自分はそこまでひどい人間じゃないと思う。
「片思いだって認識している状態でキスする男が冷静なわけがない。……そのくらい察しろ」
 ひどい人間ではなく、ただ……冷静さを欠いていただけ――。
< 6,933 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop