光のもとでⅠ
 私はかばんを肩から下ろし、バッグインポーチのひとつのポケットに手をかけた。
 すぐに手に触れたそれを取り出し木田さんの名刺を探す。
 ――あった。
 手袋をはずし携帯を開くと、そこには唯兄からの着信を知らせる表示が出ていた。
 でも、今はそれどころではない。
 私は押し間違いのないように番号を押した。
 電話が苦手とかそういうことを考える余裕はなかった。
 ただ、つながることを祈って通話ボタンを押す。
 どうか、電話に気づいて……。
 電車に乗る前に気づいて……。
 コール音が鳴り出して七回目で変化があった。
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