光のもとでⅠ
「さて。精製水で傷口きれいにするわよ」
 声を訊いた途端に、首にひやりとした感覚が走る。
 水が沁みることはなかったけど、水を拭き取るガーゼを軽く抑えられるだけで、電気が走ったようにヒリヒリとした。
「で、これを貼る……と」
 傷口にぺったりと何かを貼られて不思議に思う。
「擦過傷って普通は乾かすんじゃないんですか?」
「今は湿潤療法っていう処置があるのよ。乾かさずに治療するほうがきれいに早く治るの」
「……触ってみてもいいですか?」
「軽く触れるだけにしなさいね」
「はい」
 手で触れると、ビニールのようなものが貼ってある気がする。
「さ、手を洗ってらっしゃい」
 言われてラグから立ち上がった。
 さっき付着した血はすでに乾いておりこびりついていた。
 洗面所で手を洗って出てくると、リビングで待っているように言われた。
 少し遅れて洗面所から出てきた美波さんの手には濡れたタオルが乗っていて、髪の毛についた血をきれいに拭き取ってくれた。
「ありがとうございます……」
 人は無意識にここまで掻き毟ってしまえるものなのだろうか。
 別に痒かったわけじゃない。何か感覚に異常があったわけじゃないのだ。
 逆に、触れればヒリヒリして痛いから触れたくないくらいだったはずで――。
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