光のもとでⅠ
「はよっすー!」
 ケンは俺に声をかけると神拝を済ませ、道場の一角で身体をほぐすためにストレッチを始める。
 俺はそれを目で追っていた。
 視線に気づいたケンはきょとんとした顔で、
「なんだよ」
 身体を大きく使い、弓なりに伸ばすポーズをキープしたまま訊いてきた。
「朝、六時台には来なくなったな」
 質問と取れもしないような言葉を返したと思う。
 いなくてせいせいする、と思っていた時期もあるが、ふと思い返せばそれはどうしてだったのか、と疑問に思う。
 訊いても訊かなくてもどっちでもいいようなその程度の疑問。
 ケンは間の抜けた顔で俺を凝視したあと、くっ、と笑った。
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