光のもとでⅠ
「俺、バスの中では勉強するって決めてるんで」
 意味がわからず蒼兄と顔を見合わせ首を傾げる。
「俺が駅まで送ったらその分早く帰れないか?」
「いや、家に帰ったらもう寝たいので……。だから、バスの中だけは勉強しようって決めてるんです。たかだか二十分くらいなものなんですけどね」
 夏場の部活は大変なのだろう。直射日光のもとでスポーツをすることを考えると過酷そうだとすぐに想像ができる。
 それだけ疲れているところを来てくれたのが嬉しくて、あたたかなものは少しずつ触手を体中に伸ばし始める。
「わかった。じゃ、バス停まで乗せていくよ」
 と、蒼兄が言うと、今度は佐野くんも笑顔で答えた。
「でも、女の子ふたりは家まで送るの強制ね? 夏は変な人が出る率も高いから」
 言うと、私に視線を移し、
「翠葉、ちょっと行ってくるな」
 海斗くんが咄嗟に立ち上がったかと思えば、
「シスコンっ」
 と、蒼兄の腰辺りに軽い拳を一発。
「……さすが先輩の弟」
 と、蒼兄は脇を押させて苦笑した。
 みんなが笑い出したところで、
「じゃ、またね」
 と、それぞれに声をかけられて部屋から出ていくのを見送った。
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