光のもとでⅠ
「蒼樹と唯のスーツもーって思ってたんだけどさ、蒼樹には丁重にお断りされちゃったよ。父さん寂しいなー」
 蒼兄より背の高いお父さんが背を丸め、非難の目つきで蒼兄を見る。蒼兄は腕組をして諭す準備が整っていた。
「父さん……誕生日にスーツ買ってもらったし、フォーマルはもともと持ってる」
 取り付く島のない蒼兄に、「ちぇー」と舌打ちをし、お父さんはくりん、と唯兄に向き直った。
「唯はこういうの初めてだっていうから一式揃えるんだよなー」
 大人気ないほどにこやかだ。
「うん、初めて。結婚式とか出たことないし、招待されたこともないもん」
「うんうん、父さんが揃えてやるからなー」
 でれでれとした顔で唯兄の頭をわしわしと豪快に撫でる。とても満足そうな口ぶりだけど、半分くらいは蒼兄への当て付けだろう。
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