光のもとでⅠ
「大切だから……怖いです」
「その怖いって気持ち、よく覚えておきなさい。大切な人を失うのは怖いものよ。だから、最悪な事態は翠葉が止めてあげて」
「私にはそんな力……ないです」
「翠葉、翠葉にとって若槻は何?」
「……もうひとりのお兄ちゃん?」
「だとしたら、若槻にとっても翠葉はもうひとりの妹のはずよ」
 怖い――。
 そんなに大切なものを自分が三年間も持っていたことも、唯兄にそれを渡すことも。
 渡したあとの唯兄を目の当たりにすることも、すべてが怖い――。
「大丈夫……。栞もついているし蒼樹にもなるべく早くに帰るよう言っておく。蔵元にはすぐマンションへ来るように話しておくから。……最悪な状況にしないために翠葉にお願いしたい。若槻の側にいてあげて?」
「私に何ができるんですか? 私には何もできないのに……」
「あのね、翠葉……。若槻はカウンセリングをずっと拒絶してきたの」
 カウンセリング……?
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