光のもとでⅠ
 今の俺が彼女にできることは少ない。引くとか譲るのではなく、何も気にせず自分の好きな人に手を伸ばせばいい――そう促せば、いくらかは楽にしてあげらるんじゃないかと思っていた。

 学園内を循環しているマイクロバスに乗るのはどのくらい久しぶりだろう。
 何もかもが窮屈で、ミニチュアの世界に飛び込んだ気分。しかし、それも数分のこと。
 初等部に着き、用務員の原島さんに挨拶をすると飼育広場へ向かった。
 翠葉ちゃん以外の先客がいたことから、俺はウサギ小屋の裏手に回る。彼女たちからは見えない死角に。
 女の子の痛切な叫びに、自身を抱きしめるように腕を組んだ。
 女の子の会話を盗み聞きなんて趣味の悪い……とは思うものの、そこを去ることもできなければ耳を塞ぐこともできなかった。
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