光のもとでⅠ
 俺はなぜゆえスイハの陥落方法を教えているんだろうか……。
 そんなことを考えていれば、廊下をヒタヒタと歩く足音が聞こえてきた。
 その足音は、ナースセンターまであと少し、というところで止まる。
「傷つきますね。そんなに警戒しないでください」
 すでに俺からは後ろ姿しか見えないが、老いを感じさせないその端整な顔には笑みを浮かべていることだろう。対して、スイハは口元を引きつらせ、上ずった声で返事をした。
「私のところへ来ないということは、戻してはいないようですが……」
 あぁ、次に吐いたら受診しろとかそういう約束がしてあったのか……。なるほど。
 あいつが戻した日から換算すれば、そのあとに生理が来たはず。だとしたら、戻していてもおかしくないわけだが、行かなかったということは戻してないのか、戻していても受診しなかったのか――。
「あ、あの……最近はご飯を食べてもあまり胃が痛まないし、治ってきているのだと思いますっ」
 必死すぎる訴えに、涼先生は実に穏やかな声音で答える。
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