銀棺の一角獣
「――たちの悪い冗談です、キーラン様」


 アルティナはそれだけを口にした。本当は思いきり叩いてやりたかった。

 本気で心配して、本気で泣いた。だから叩くくらいはしてやらなければ気が済まなかった。

 けれど、他の人たちの目もあるし、何しろこれからライオールを迎え入れなければならないのだ。

 アルティナの目だけでキーランは気づいてしまったようで、瞳を伏せてしまう。


「……ごめん。そうするしかなかったんだ。父を助けたかったから」

「しかたありませんわ」


 アルティナの方もそう返すしかなかった。ここで怒りをぶちまけるわけにはいかなくて。


「――とにかく王宮に戻りましょう。すぐにライオール陛下――あなたのお父様がいらっしゃるから」


 今は自分の感情に蓋をしなくては。そうでなければ、これから先の交渉を乗り切ることはできなくなる。


「――女王らしい顔をしているじゃないか」


 ティレルに茶化されて、アルティナは思いきりティレルをひっぱたいた。

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