レベッカ
ハリーに撃たれたのと逆の脇の傷は、あの、凶暴化した野犬の殲滅で負ったものではなく、その後に起きた立て籠り強盗の時のものだ。
誰がどうなろうと、事件は起きるし犯罪者は生まれる。
時間も決して待ってはくれない。
ロイは、おろおろと怪我を気遣うアレンに、言った。
「子供の頃は、その……そうだった」
「そう、って?」
小さく舌打ちをする。
「言わせんのかよ……好きだったんだよ、レベッカのこと」
「知ってるよ、そんなん」
言わせたくせにと、溜め息を吐いた。
さっきは伸ばしかけてやめた手を、今度こそ頭に持っていく。
がしがしと雑に髪を触って、再び口を開いた。
「でも、気付いたら。いつからかはわかんないけど、あいつが……」
一瞬、言うのを躊躇う。
逡巡して、意を決した。
「“あの事件”の前には、もう、あんたが」
「いい、言わなくて」
「なんでだよ! さっきは言わせといて」
「あたしを恨んでると思ってた」
やけに静かに、アレンが言う。
ロイに背中を向けて、フェンスに腕を置く。
その肩を見ながら、ロイは、フォローの言葉に迷っていた。