アカイトリ
突然の出来事に颯太が動けないでいると、ひとしきり無理矢理に舌を絡めた後、唇をようやく離す。


「お前…そっちの趣味があるのか?悪いが俺にはないぞ」


怒ることもなく逆に苦笑まじりに言われ、凪は肩を竦める。


「いや、俺にもそんな趣味はないが、美しいものは大好きだ。お前も天花も」


――奪って、他人に言えないようなことをしてやりたい。


「面白い奴だな、お前は」


白い歯を見せて笑う颯太にやはり凪は不思議な安堵感に包まれ、混乱していた。


「あ、あー…俺の名を教えてなかったな。俺は凪だ」


「凪か。俺は颯太。この通り、碧い鳥の末裔だ」


ぐい、と浴衣を自らはだけさせ、その証を見せる。


その身体に無残に走った傷――


「俺は黒い鳥の親父と、人間の母との間に生まれた。この肌に生まれついて、人間側にはたいそう迫害されて育ったぜ。“普通と違う”ってな。他の神の鳥とは会ったことはないが、きっと言われたろう。“こちら側でもない”ってな」


…同じような境遇。

けれど颯太の場合は遥かに環境に恵まれている。


庭園から凪に目を映すと、颯太は首をかしげて尋ねた。


「“どちらともではない”のではなく、“どちらでもある”んじゃないのか?」


――凪は右目を瞬かせた。


「は?」


「人間でもあり、神の鳥でもある。両方共に神から造られた。どちらの思いも汲めるはずだ」


…そんなこと、はじめて言われた…


全てのものから迫害されて育った凪の道は、力に任せた暴力や窃盗でしかなかった。


「俺が…両方でもある、だと…?」


――自問する凪を、颯太があたたかな笑顔と瞳で迎える。


「僥倖だ。朱に碧に、黒。純血種は天花だけだがお前の父は純血種の黒い鳥。聞きたいな、お前の父のこと。そして凪、お前のことを」


――不覚にも凪は泣きそうになった。


ふいっと颯太から視線をそらすと、すん、と鼻を啜った。


「お前と俺、共通点がひとつある」


「何だ?」


無防備な颯太の隙をついてまた唇を奪うと、身軽に立ち上がって屋根に飛び移る。


「黒と碧には、つがいが造られなかった。この話はまた今度してやる。じゃあな、颯太」


――できるだけ早く、凪はその場から走り去る。


天花の言う通りだった。


颯太は、全てを受け入れる。
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