アカイトリ
それからの天花は菖蒲にべったりだった。


菖蒲が行くことなすことついて回り、顔は笑顔で溢れている。


「まるで親鳥について回る雛鳥だな」


それを颯太が少し離れた所でほほえましく見守っていると、颯太にちょっかいを出しに来ていた凪がみたらし団子を口に頬張りながら頷いた。


「まさしく。美女二人が仲睦まじくじゃれ合う。いいねえ」


――神が夢の中で語った“神剣を持って現れる人間”とやらはまだ現れていない。

だが颯太は今でも時間ができれば蔵に入り、書物を読み漁っていた。

ここほど、神の鳥と神についての蔵書が残っている場所はないのだ。


「凪、お前はどちらから流れて来たんだ?」


「俺か?南の方より。神の鳥についての噂もちらほら聞いたことがあるぜ」


茶をすすり、凪は池で泳ぐ魚をすくおうとしては笑い合う天花と菖蒲を見遣った。


「南か。何色の鳥だ?」


「白だ。俺は会ってはいないが、地上でも親父は会ったことがあるそうだ。


「地上“でも”?」


ひっかかる物言いをした凪の顔を颯太が覗き込む。

凪はたれで汚れた指を舐めつつ頷いた。


「出会った白は、親父と同じく神自らの手で造られた鳥だそうだ。世代を重ねた鳥ではない」


考え込んだ颯太の前に、天花がやって来て、こぼれんばかりの笑顔で颯太の耳の上に赤い花を挿して蝶のようにひらひらと揺れながら離れて行く。


「白はつがいは居なかったのか?」


「いや、造られたはずだぜ、黒と碧以外はな。だがまあ…相いれんこともあるだろうさ」


一度つがいになってしまえば生涯を共にする。

片方が何らかの形で死ねば、もう片方も恋焦がれて死んでしまう生き物なのだ。


「あれじゃね?白は神の最も純粋で崇高な感情を練り込んで造られた。潔癖性なんだぜきっと」


面白いことを口にした凪の肩を突くと、天花が耳の上に挿していった花を取り、香りを楽しんだ。


「できれば会ってみたい。方法はないだろうか?」


そうだな、と凪は呟くと、空を見上げた。


「今ここに朱、碧、黒が居る。十分すぎるほどに同朋には俺たちの香りや存在が伝わっているはずだ。だからただ待てばいいのさ」


――颯太も空を見上げた。


待つ時間が短ければいいけれど、と心の中で呟いた。
< 146 / 160 >

この作品をシェア

pagetop