アカイトリ
伊織と名乗った男…


一体、この殺気の無さと、だがどこか凡庸としていて、隙を見せると飛び掛かってきそうな威圧感…


「油断するな。これは、俺を殺しに来たんだ」


――伊織は鞘に手を置いた。

にわかに警戒しだす凪と楓を何とか封じ、颯太もまた鞘から剣を抜く。


「話をしないか?知らないこともあるだろうし、俺が知りたいこともある」


「…聞き分けが悪くてすみません」


伊織はぺこりと頭を下げて剣を抜いた。

細く、殺傷能力などまるでなさそうな鈍い光を放つ“神の剣”を見て、凪が身震いした。


「颯太、あれに触れるなよ。俺の左目はあの神の剣にやられたんだ。神の鳥と言えど、完治はせんぞ…」


「わかった。だが凪、俺はほぼ人に変わりない。人と争いたくはない」


抜いた剣をぶらぶらと揺らしながら伊織が余裕を醸し出して待っている。


「まだそんなこと言ってるんですか?僕の呪いは今絶たないと、確実にまだ見ぬ未来の僕の子供は死んでしまうんですよ」


――つかつかと殺気もなく歩み寄ってきた伊織が剣を振り上げた。


剣が噛み合う高い音が屋敷内に響き渡る。


「伊織、話を聞いてくれ」


「断ります。僕、あまり体力ないし剣士のまね事は苦手なんですよ。だからさっさと死んでもらえます?」


――急に力を抜いた伊織に倒れかかると思いきや、颯太はそれを察知して腰の鞘を投げ付けて隙を作る。


だが剣を持つ手は下がったまま。


何度も伊織が振り下ろす剣を受けるだけの颯太にさすがに伊織が肩で息をしだした。


「嫌になるなあ…そんな細い身体で体力あるなんて」


「伊織、お前の呪いを解く方法を共に探さないか?皆がその方法を探しているんだ」


やや伊織の剣が鈍った。


「そんな方法ありませんよ。神は目覚めた。僕はあなたを倒して、呪いを解いてもらうんです。だから犠牲になってください」


――高く剣を両手で振り下ろそうとした時。


伊織は、かつて感じたことのない香りと、突き刺さる視線に手を止め、振り返った。


赤瓦の屋根には、ひとりの女。


月を背に、その姿は白く、朱く――
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