アカイトリ
伊織はだらりと剣を下げた。


「屋根の上に人?いや、あの姿は…」


人ではない。


あの赤い髪に、朱い瞳…

太股が全て露わになった『ぱんつ』を身につけ、上に白い『たんくとっぷ』を着ている。


ただ、見下ろしてくる人外の生き物。


戦わなければならない相手なのに、伊織は激しく躊躇した。


「その男に手を出すな」


ただ静かに降ってくる、女にしては少し低い声。


太股までかかる長く細く朱い髪が風になびいた。


伊織はその瞬間——恋に落ちた。


「天花」


今まで剣を打ち合っていた颯太が屋根上の女を見上げた。


その時あからさまに、天花と呼ばれた朱い女が微笑んだ。


花開くように――


「同じく神に呪われた人よ。境遇は同情する。だがその男に手を出すな。我々が黙ってはいないぞ」


言いつつ、ちらちらと颯太を見つめる朱い女。

伊織は颯太に嫉妬した。


「…あれあれ?朱い鳥に碧い鳥の末裔…恋仲だったんですか?いや、そんな馬鹿な事が起こるはずが…」


かすかに残った文献と、今まで百数世代もの間姿を現すことがなかった神から与えられた知識と――それを照らし合わしても、違う色の鳥同士が契ったという記録や記憶はない。


「不毛な。理解できない」


思わず呟くと、天花は言い放った。


「お前などに理解してほしいとは思っていない。わたしたちは呪縛から解き放たれる方法と、そして…」


颯太が微笑していた。

だが、首を振っていた。


黙り込んだ天花の後を引き継いで、颯太が再び伊織に問う。


「必ず方法はある。共に探さないか?夢でお前を倒したら、“会ってやってもいい”と言われた。神はずっと俺達を監視しているのか?」


方法など無いと言ったのに…と伊織はひとりごちながら美しい天花から目を離すことができない。


「神はこの世界などにもう興味はありませんよ。大切なものはとうに死んでしまっていますからね。けれど僕があなたを倒して神に呼び掛けた時、神は呼び掛けに応えてくれるでしょう」


――伊織のその言葉で颯太が頷いた。


「わかった。では倒すしかないな」
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