アカイトリ
広い庭園に、等間隔で松明が燈されている。


天花は、中庭の美しい池にはじめて人になった時の自分の姿を映した。



朱い鳥の証の、

朱い瞳と、朱い髪。



ぱしゃっと水面を打ち、波紋を広げた。



「…どうかしている…」


膝を抱え、丸くなった。


あの男にされるがままになるところだった…


本来の姿と人に変化した時の姿、両方共に何者にも触れることを許したことはない。


なのに…


颯太には簡単に許してしまった――


あんなに憎んでいる人間なのに…


神も人間も…

碧がしたことも。決して許しはしない。


――どの位そこに居たかは分からない。

後ろからすっと温かい飲み物が入った湯呑みを差し出され、天花は振り返る。


この女は確か…


「この池、案外深いから危ないわよ」


…ぼんやりとその女を見つめた。

確か、蘭と呼ばれていた人間だ。

蘭は手を引いて天花を立たせると、使用人部屋の前の縁側に座らせた。


「あたし蘭っていうの。ここの使用人。あなた朱い鳥でしょ、ここに閉じ込められてかわいそうに」


同情するように頭を撫でてきた蘭の手を乱暴に払った。


「わたしに触れるな」


蘭は肩をすくめて茶をすすると、首の鎖を盗み見した。


「出してあげたいけど、颯太様が許さないだろうから我慢して。…きっと飽きたら解放してくれるから」


今まではそうだった。


でも今度は?


蘭の胸は、毎回颯太が女を連れ込むごとにいびつな音を立てるのだった。
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