アカイトリ

宿命と運命

陽が昇るまで、天花はじっと縁側に座っていた。


蘭は使用人部屋に戻り、就寝している。

なんとか見様見真似で乱れに乱れた浴衣を直し、鳥に戻る瞬間を待っている。


「おい、邪魔だ」


気配もなく頭上から言葉が降ってきたので、天花が跳びはねるように身構えた。


…楓、と呼ばれていた男だ。

雄の目で颯太を見ていた男だ。


「…」


ぷいっと顔を背けた天花に対して、楓はそっと腰に下げた剣の鞘に手を置く。


まるでそれを見ていたかのように天花が振り返って一瞥した。


「わたしを殺す気か」


「…」


そうだろう。

あの男を愛しているのならば、自分は邪魔者に違いない。

しかし楓は動かない。


「そう簡単には殺せないぞ。神に与えられしこの身はなかなか丈夫にできているのだから」


人に殺されるか。

つがいとなり、愛する者と永遠を生きるか。


…できるならば、後者でありたい。


「首が落ちる位では死なない。そう言われている」


「…試してやろうか」


じわりと殺気が満ちる。


天花は楓を見上げた。

楓は天花を見下ろした。


自分で直したせいか、楓の位置からは天花の豊かな胸の盛り上がりがよく見える。


あの時 、主の腕に抱かれて淫らな声を上げていた朱い鳥――



「…わたしを逃がしてくれるのならば、お前の雌を傷つけたりはしないぞ」



――主を「雌」呼ばわりされた楓は、自身の頭からぷちんと何かが切れた音が聞こえた。


「許さんぞ…たかだか獣のお前に颯太様を卑下される覚えはない!」


音もなく剣を抜く。


音もなく、天花が間合いを詰めて楓が構えた剣の柄を掴んだ。


「…!」


「これでも神に創造されし身。故に様々な力を与えられた。二番煎じで作られたお前たち人間よりは遥かに高度に作られた。それを忘れるな」


そう吐き捨てると、颯太が宛がった部屋へ向かって歩き出す。


背後で楓が聞こえるように呟いた。


「神に墜とされ、見放された身でよく言ったものだな」


――ああ、そうさ。


だから罰を受けてさ迷っているのだ。
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