アカイトリ
本来の朱い鳥の姿のままの時は、いつも屋根の上にいることにした。

そうすれば、あのうるさい男から追いかけられることはない。

そして、この屋根の上からは、街が一望できる。


人が、自分たちのために、自分たちの手で作り上げた街。


数千年前の大洪水の後、生き残った人間たちが力を合わせて再び作り上げた街。


たくましい。


わたしはその間、全てのものを呪うことしかしなかったのに――。


「ご主人様…あれは何で?」


新しく雇った若い庭師が、屋根の上に座っている天花を見て尋ねた。


「あれか。あれは風見鶏だ」


何でもないことのように颯太は言うと、天花を見上げた。


ぴくりとも動かない。


あいつめ。

そんなに俺に構われるのがいやか。


――颯太は、実はひどく楽しんでいた。

色は違えど、はじめてめぐり合った同朋。

この血は薄くなり、同朋と呼んでいいものかも迷うが、自分の中に流れる血が喜びを、喝采を叫んでいる。


颯太は実は知っていた。


天花が喋れることも。


ましてや、条件はあるが日中も人間の姿に変われることを。


その事実は、始祖と碧が残した書物に記されている。


「俺を欺こうたって、無駄だぞ」


笑みを浮かべていると、楓が馬を引いて声をかけてきた。


「颯太様。本邸にて、隼人様がお待ちです」


親父殿にだけは、朱い鳥を捕らえたことを報告しなければならない。


一族は本懐を遂げようとしているのだから。


永きに渡り、この地を守ってきた颯太の一族が、碧い鳥と人との間に生まれた混血の者であることを、この街の古い老人たちは知っている。


この街は大洪水から免れた。


碧い鳥が、立ちはだかったからだ。


神と真っ向から対峙した碧。


泣きながら、神に訴えたと書物に書かれてある。



『あなたが愛する人を、

 あなたを愛するわたしたちを、

 どうか許してほしい』


と。


父は、各地を旅していた。


幻の神の鳥の伝承が残る地域をしらみつぶしに旅していた。


出会うために。


鳥の中で神から最初に創造された碧の意思を、伝えるために――


その父が帰ってきた。


どれほど喜ぶことだろうか。


颯太はにわかに心が弾むのを抑えられず、早足で馬に駆け寄ると、飛び乗った。
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