アカイトリ
「納得できない。たかだか数十年しか生きられないお前たち人間のために死ぬなどとは」


横向きに腰掛けている天花の背中を支える颯太の手に若干力がこもる。


「そうか?だが喜びに満ちたまま逝ったそうだぞ。出会えずにいる数千年と、出会えた数十年…お前はどっちがいい?」


――すでに独りのまま数千年を生きた。


独りだったから、孤独を感じたこともない。


「人間は愚かだ。姑息でずる賢くて…」


「天花。お前はそれをその目で見たことがあるのか?」


「…なに?」


くい、と顎を取られ、藍色の切れ長の瞳と間近に対峙する。



「確かに人間は愚かだ。手に入らないものばかりを欲しがるし、裏切りもする。だから俺は、お前が欲しい。…愚かな人間だから」



すっと首筋を撫でられ、天花は飛び上がりそうになる。


「愚かだから、得られぬものでもどうにかして手に入れたい。お前にはわからないか?」


さらに、唇が…あの美しい唇が首筋を撫でた。


「碧は始祖のために歌った。俺もお前の歌が聴きたい。天花、俺のために歌え…」



碧よ。


この快楽は何だろうか?


あなたもこうして、人間に溺れさせられたのだろうか…?


――荒くなる熱い吐息を飲み込むように、颯太と唇が重なる。


逃げる天花の舌に対し、執拗に追いかけてきては…思考が止まる。


唇と唇のやわらかさ…。

優しく強く、重なる唇



「わたしを愚弄するな…っ!」


「愚弄などするものか。純粋にお前が欲しいだけだ。天花…お前の身体を、そして…心を」



颯太の手が上がるのを、天花は爪を立てて全力で止めた。



「わたしの全ては、わたしだけのものだ…っ!言った、はずだぞ…!お前のものにはならない、と!」



心が泣き叫ぶ。



“わたしも愛されたい”、と。
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