アカイトリ
心臓が早鐘を打っている。


人とは馴れ合ったことがない天花は、優しく髪をとって口づけをする颯太をまともに見ることができないでいた。


だが刻印から…

颯太の身体から、目が離せない。


――窮屈な沈黙で部屋は満たされ、どうすればいいかわからないでいると、颯太が動き、天花に着せた自分の浴衣を整えて、座椅子に座った。


「…まぁいい。天花、ここに座りなさい」


ぽんぽんと叩いたのは、颯太の膝の上。


「…正気か」


「正気だとも。聞きたいことに全部答えてやるから、ほら、座れ」



――長らくためらった後、颯太が折れそうになかったので、仕方なく膝の上に横向きに座る。


「…・碧は、どこに葬られた?」


「本邸の霊廟に始祖と共に葬られている。それが碧の遺言だったらしい」


…最期まで、愛する者と共に、か。


羨ましすぎる。


そのような感情に芽生えたことがないのは、人里に降りなかった自分、同朋に会えないでいる自分のせいだ。


「見たいなら連れて行ってやるぞ」


「ああ、連れて行ってくれ」


素直に礼を述べてきた天花の頭を、颯太が撫でる。


「…お前の始祖と碧はどうやって出会ったんだ?」


「罠にかかっていた所を、始祖が助けたそうだ。捕らえるつもりはなかったが、逃げる様子もないし、家へ連れ帰ったと記されてある」


机の上に置かれている碧が残した書物を二人は見遣る。


…愛したのだな、一瞬にして…


神に呪われるまで、幸せな時を過ごしたのだな。


――それはひどく想像できないが、ひどくあたたかいことのように思える。


喜びを与える鳥 。


碧は人を愛し、愛されて逝った。


「…羨ましい」


思わず呟き、何の気無しに片膝を立てた天花の白い脚が視界に入り、颯太は視線をそれから逸らす。


「始祖亡き後は静かに逝った。この街が大洪水に襲われなかったのは、全て碧のおかげだ」


力を奪われながらも、全力で人の側に立った碧。


あなたはそれで満足でも…


神に呪われてしまったわたしたちのことを、あなたは考えたことがあるだろうか…?
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