アカイトリ
「天花、そんなに泣くと目が溶けてしまうぞ」


そっと指先で伝う涙を拭う颯太の長く細い節ばった手の上から手を重ねる。



「碧い鳥…なぜ神のために生きることができなかったのか…」



最も愛されていたから、その絶望も深い。



「始祖の須王は碧い鳥…葵を深く愛したという。天花、お前に見せたのは、碧が同朋のために遺した遺言だ」



「それでも、わたしは人のために生きて死ぬことなどできない…」


「天花、俺の瞳を見ろ」



――碧と朱の瞳の視線が混ざり合う。



「人と接したことのないお前がそうやって憎いと思い込むのはなぜだ?」


「それは…生まれた時から、そうだった」



身体の中を駆け巡る血が、生まれたばかりの天花に雷を打ったかのように神と人間に対する恨みや憎しみを張り裂けんばかりに叫んでいた。



「人は我々を捕らえ、なぶって痛めつける。人なんか造られなければよかったのに。わたしなんか、生まれなければよかったのに…」



――なおも溢れ出る涙を、颯太のきりりとした薄い唇が吸う。



「生まれたからには、お前にもやらなければならないことがあるはずだ。それにお前が居なかったら俺は…何の喜びを感じることもなく、短い生涯を終えて逝っただろう――」


「そんなことを言うな…」



颯太の唇を天花が人差し指でつっと塞いだ。



「お前に出会わなければ、碧の真意も知ることはなかった」



囁くように颯太を励ました朱い鳥の人差し指を取ると、それを颯太は口に含んだ。


舌先で優しく指先を転がす。


「…っ」


天花が身震いして、半開きになった唇から甘いため息を漏らす。



「颯太と、呼んでくれ」



「…っ、にん、げん、の、名前など…呼ぶものか…っ」



心はもう何度もその名を叫んでいるのに…



――無理矢理颯太の口から指を引き抜き、天花は乱暴に立ち上がると足音も高らかに部屋を出た。


そっと障子の奥の颯太の気配を探る。


動かない。


天花はそっと、颯太に愛され、慈しまれた人差し指を、掌で包みこんだ。
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