アカイトリ
それの存在を、ただの人間が知っているはずはなかった。


…いや、“ただの”人ではなかったな…


いつもの天花ならば、厳しく追求していたところだが、いかんせんはじめて飲んだ酒のせいで頭が回らない。



「神が人間に授けた秘伝書が実在したそうだ。そして人間が、神の鳥を殺せる神剣を作った」


「なぜ…そのことを知っている」



ふわふわ身体が浮いているようで気持ち良い。


颯太の身体の熱が、気持ち良い。

颯太の香りが、気持ち良い…



まるで子供のように身体の力を抜いて颯太に預けた。



「何故…神は…わたしたちを、殺さなかったんだろう…?」


それはもはや独白。

答えずとも良いものだったが、颯太は天花の額に口づけをすると、両手で包み込むように抱きしめる。


「殺せなかったはずだ」


「…なに?」


ふわふわ。

強烈な睡魔と戦いながら颯太を見上げると、形の良い唇から目が離せなくなる。



「きっと、殺せなかったはずだ。何故ならば…自分の手で造り、深く慈しんで、共に楽園を生きたのだから」


「…そうだろうか」


「ああ。殺せなかったから、人間に授けたんだ。お前たちはまだ、今も昔も愛されている」



嬉しい。

何と嬉しいことを言ってくれるんだろう。



しかし、神への呪詛は強い。

墜とされた苦しみが…悲しみが絶えず生きている限り襲ってくる。



かたかたと少し震えた天花を、さらに強く抱きしめた。



「この地のように、神の鳥が立ちはだかり、大洪水を免れた地がいくつかあることを知っているか?」


「…私は人里には一切降りなかった」


それを恥じるように俯いてしまった天花の顎を取って、まっすぐ見つめ合った。



「強大な力ではなかったが、神に抵抗し、大洪水を免れた地には今もお前たちの同朋が人と共に暮らしているという。それをお前にも、見せてやりたい」


「ああ…たしも、見てみたい。」



お前と二人で。



――満天の星々の下、静かに唇が重なった。
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