アカイトリ
二人は客間へ移動して、鏡台の前に天花を座らせた。


池に写る自分よりも、何倍もはっきりと映る姿に天花は目を丸くして身を乗り出す。


「鏡を見るのははじめて?」


努めて明るく尋ねると、無言のままに天花が頷き、自らの頬に触れたり、身体を触ったりして物珍しそうにしていた。


櫛を手に取り、どこまでも艶やかな天花の長い髪を持ち上げて梳すと、うっとり瞳を閉じた。


女の自分から見ても、とてつもなく美しいと思う。


けれどそれは、これが魔性の生き物のせいだからだ。


…あたしだって、負けてない。


颯太様に「抱きたいほど可愛い」って言われたんだから。


――強気に思い込み、最近他の国から渡ってきた香油をつけようとして蘭は手を止めた。


「元々良い香りがするものね、これは必要ないわね」


革紐で髪を縛ると、蘭は前に回り込んではじめてまじまじと天花の顔を見つめた。


少し吊った気の強そうな瞳。

化粧など一切必要のない雪のような色の肌・…


颯太が参るのも、理解できる。


半ば戦意喪失に陥りながらも天花の浴衣に手をかけ、用意した藤色の着物を着せようとした時。


首の鎖の上あたりに、桜色の痣があった。


「こ、これって…」


鏡の中の自分をまだ不思議そうに見ていた天花が蘭と視線を合わせて、また鏡を覗きこんでそれを確認する。


「?何だこれは」


本人もわかっていない。


逆にそれがどうしようもなく腹立たしい。


天花が寝ている間に、颯太が愛しさを込めてつけた、


それは所有印――


「…なんなのよ、もう……」


泣きだしそうな気持ちを噛み殺し、俯いたままに着物を着せ、天花の背を押した。


「ほら、行ってらっしゃい」


すると。天花が何か言いたそうにこちらを見ていることに気付き、蘭は鼻をすすりながら顔を上げて天花を見た。


「…あり、がとう…」


ぎこちない、感謝の言葉だった。


顔を赤くしながら天花が走り去って行く。


蘭は、ギッと音を立てて籐でできた椅子に座った。


天花が悪女だったらどんなにいいことか。


恨みたい。


心底から――
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