アカイトリ
藤色の着物を着て客間から出てきた天花を見て、馬の傍らで楓と談笑していた颯太は苦笑いした。


「その恰好で馬は乗れないな。歩きにするか」


馬になど乗ったことがない天花は多少それを残念に思ったが、街に出れることに変わりはないので素直に頷く。


「楓がいるから、まぁ大丈夫だろう」


「?何かあるのか?」


名家の生まれであることにより、常に刺客に襲われる可能性があることは特に天花に伝えず、楓が代わりに答えた。


「私がいる。心配無用だ」


父を除けば国内でも最強の部類に入る楓の名を聞いて恐れおののく者も多い。

また、颯太に次いで街の娘たちの憧れの存在でもあるのだが、本人は一向に興味を示さなかった。


その楓が常に颯太の身を守ってきた。


――多少歩きにくそうにしながらも、よたよたと近づいてくる天花を待っている間、客間から蘭が出てきた。

軽く手を上げて労をねぎらい、笑いかけた。


「すまなかったな、忙しいのに」


「いえ、これも仕事ですから」


そっけなく返すと、颯太は傍らに咲いていた薔薇を一輪抜き、香りを楽しみつつ再び笑みを漏らす。


「今度は花ではなくお前に似合う髪飾りでも見つけてくる。楽しみにしていてくれ」


…蘭はその一言で、抱えていた不満や愚痴を全て吹き飛ばした。


「はいっ、行ってらっしゃいませっ」


楓がすれ違い様、ぽんと軽く蘭の肩を叩いて囁いた。


「現金な奴だな」


「ほっといてっ」


門に向かって歩く四人を見送りながら「どうぞご無事で」と祈り、蘭は仕事に戻った。


――颯太は天花の手を引き、門の前に立つ。


「それを外してやる」


「…いいのか?」


「いいも何もそれじゃこの屋敷からは出られんぞ」


鎖の鍵を取り出し、開錠した。

芹生は事情がわからず首をかしげている。

まだ訝しげな表情の天花の手を引き、一歩進んだところで四人は立ち止まった。


…不穏な気配がする…


「…楓」


「はい。…何か居ます」


腰の剣の鞘に手をかけた。


だが、天花は空を見上げて、大きく息を吸い込み、爛々と朱い瞳を歓喜に輝かせながら颯太を見る。


「同朋の香りが…」


「何だ?」


「同朋の気配がする…!」


嵐は、すぐそこまでやって来ている。
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