アカイトリ
突然後退した謎の男に、颯太は訝しげに思いつつ、壁際を横移動し、距離を取る。


「…今日のところ、殺すのはやめた。だが」


完全に油断した颯太の左肩から斜めに凪は斬激を放つ。



ぱっと鮮血が飛び散り、再び楓と天花が悲鳴を上げる。


颯太が傷口を押さえ、地面に崩れ落ちると、天花が裸の姿も厭わずに駆けてきた。


「これ位はしておかねえと、気が済まねえんでな」


びゅっと剣を斜めに振り、血を払いながら岩に腰掛けた。



「俺は三百年生きてきた。純粋な神の鳥ではないが、自在に姿を変えることはできる」



淡々と語る中、楓が天花の着物を裂いて止血にあたり、天花は傷口を押さえたまま、おろおろとしている。



「今まで神の鳥には会ったことがねえ。お前たちがはじめてだ」


「黒い、鳥よ……何故俺を、恨む…?」



そんな簡単なことか、と軽く頷き凪は肩をすくめた。


「親父の呪詛さ。見たこともねえのに、碧い鳥へと呪詛だけは餓鬼の頃から吹き込まれてきた。だから男であろうと女であろうと、碧い鳥の一族は俺が滅ぼす」


――にやりと歪んだ笑みを浮かべ、凪は腰を上げて颯太の側にいる天花の腕を掴んだ。


「来い、俺と共に。そいつの寿命はたかだか十年位だろう?」


…言い当てられ、天花と楓が驚く。



「見えるのさ。そいつは長く生きられねえよ。最も神から愛され、憎まれた代償だ」


「…ふふ、気狂いの黒い鳥の、子よ、俺はその通りに、残り僅かにしか…生きられ、な、い…。だがその残り僅かな人生だけは、天花と共に生きてゆくと決めた…。だから、お前には、渡さない…」



…狂おしいほどの告白に、天花はどうしようもなく嬉しくなり、きっと朱い瞳を凪に向け、颯太を庇うように両手を広げると立ち上がった。



「わたしはこの男が死ぬまで傍にいると約束した。だから…離れない」



――凪はがしがしと髪をかく。


「つがいでもねえのに何なんだお前らは。…まあいいだろう。いずれお前は死に、俺は天花を頂く。世の中は不公平だな、碧い鳥の末裔よ」

< 81 / 160 >

この作品をシェア

pagetop