アカイトリ
医者と、颯太の父である隼人が同時に到着した。


「…颯太は?」


隼人に呼びかけられ、楓は颯太の部屋を目線で促す。


「今、朱い鳥が中に…」


藍色の髪を揺らし、そちらを見ると、隼人は歩き出した。


右手には、小さな小箱を持っている。


「隼人様、それは…」


「楓、控えなさい」


背後から肩を掴まれ、振り返ると、楓の父である疾風(ハヤテ)が無言で首を振る。

隼人が神の鳥を探して世界を旅する間、ずっと隼人の身を守り続けた父。


「父上、ですが颯太様が・・・」


「朱い鳥が傍に居るのならば心配ない」


やけに強く断言されて楓は戸惑った。

初老の疾風は再び慰めるように楓の肩を抱く。


「そう簡単には死なん。颯太様は碧い鳥の末裔だ。傷の治りは人間なみでも、生命力は強い。それに、神の鳥には癒しの力があるからな」


疾風はなおその場を動こうとしない楓の肩を押して、歩き出した。


――隼人は颯太の部屋の障子を開けた。


朱い髪の、朱い瞳をした絶世の美女が、颯太の身体に唇を這わせている。


「あれが癒しの方法か」


…碧の遺した書物にも、その方法が書かれていた。


では目の前の女は、確実に朱い鳥なわけだ。


「朱い鳥よ」


呼びかけると、顔を上げた。


口の回りが颯太の血で真っ赤に染まっている。


その姿が、異常に美しい。


「私は颯太の父だ。つまり碧い鳥の血族の現当主だよ」


――優しく言い、天花の真向かいに座り、颯太の顔を覗き込んだ。


顔は時々苦痛に歪んでいたが、明らかに傷口が塞がりかけている。


今でこれなら、実際受けた傷は相当酷かったに違いない。


「颯太の、父…」


「そうだよ。さあ、これを傷口に塗ってやりなさい」


手渡した小箱を天花が開ける。


中身は塗り薬だ。


「碧が処方した、特別な塗り薬だ。お前の唾液とも相成って、息子の傷はすぐに塞がるだろう」


「たす、かるか…?」


ああ、と強く頷いた隼人を見て、天花は再び颯太の顔を覗きこむと、安心したように微笑した。
< 86 / 160 >

この作品をシェア

pagetop