アカイトリ
「あれはな、風見鶏というやつだ」


――しごくまじめな顔をしつつも饅頭をほお張りながら、颯太は屋敷の台所で蘭に切々と語っていた。


蘭は颯太に茶を入れながら、呆れていた。


「颯太様、こんな所にまで来てはしたないですよ」


「おい、俺の話を聞いてくれ」


颯太が愚痴っているのは、彼が日がな追いかけ回している天花のことだ。


あまりにもしつこく追いかけるので天花は屋根の上に陣取って鎮座し、そこから動かなくなっていた。


「仕方ないですよ。だって無理やりこの屋敷に閉じ込めているんでしょう?」


…それよりも、ここに来てくれたことが嬉しいけどね。


――内心、蘭は台所にまで来て蘭に話をしにきている颯太のことが嬉しかった。


この屋敷には使用人が三十人ほどいる。

その半数が女性なわけだが、颯太はほぼ全員に手をつけていた。


…蘭には一度も手を出したことがなかったけれど。


「美しいものは追いかけたいじゃないか。見ろよ、風見鶏みたいになっているが陽光にきらめくのあの朱を」


金の髪に、藍色の瞳を持ち、異様に目立つ容姿に生まれた颯太。


「颯太様。もう一度言いますけど、こんな所まで来ちゃだめじゃないですか」


「話くらいいじゃないか」


唇を尖らせた颯太に愛しさがこみ上げるが、蘭はぷいっと踵を返す。


「駄目です。ほら部屋に戻って!」


「俺はしばらく街に出ない。天花の傍にいる。何より…」



天花は、処女だ。



――遊び人の颯太にとっては、いまだかつてない女…いや、相手は鳥なのだが…


颯太は処女など相手にしたことはない。


「昨夜な、唇を奪ってみたんだが…“何をする”と真顔で返された」


なおも居座って2個目の饅頭を口にほおばる颯太は、長い足を組み替えて暑そうにぱたぱたと服を扇いだ。


…意外に、たくましい。


蘭はあわててそれが視界に入らないように視線をそらせる。


「へ、へぇ…まあ元が鳥なのなら仕方ないですよね。でも夜は人間の姿でしょ?よく今まで捕らえられなかったものですよね」


「ああ。そこらへんも聞いておきたいし、一から十まで全て俺が教えてやる」


燃える颯太。

蘭は呆れつつも、愛しい主人に三個目の饅頭を差し出した。
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