蠱惑な、異名。
『星合い』
水の上を渡る風は、まだ梅雨が明けぬ季節にふさわしい重さだった。
後ろで緩く纏めた髪が、その風に絡めとられてほらりと舞う。
木の手摺りから軽く身を乗り出してしばらく濁った水面を眺めていると、不意に視界が滲んできた。
慌てて顔を上げて心が揺らいだことをなかったことにする。






もう、大丈夫だと思ったのに…。








降水確率50%
どっちつかずの晴雨兼用傘は開く機会を失ったまま、私の手元を飾る小道具となっていた。









気がつけば10年。
出逢った頃は浴衣すら満足に着れなかった私が、今はこうして夏着物で佇んでいる。
物事にはちょうど良い時期が必ずあるんだよ。
あなたの口癖を、真似てみる。
そうね、ちょうど良い時期が何事にもあるのよね。
薄く微笑って私は歩き出す。


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