週末の薬指
「瀬尾さん、いらっしゃい」

店内に整然と並ぶ宝石たちの輝きに圧倒されながら、夏弥の思うがままにお店の奥に連れてこられた。

黒い制服を着たきれいな女性が親しげに夏弥に笑顔を向ける。

私と同年代くらいに見えるその女性は、夏弥と手をつないでいる私を見ると嬉しそうに笑った。

「いらっしゃいませ。今日はご一緒にいらっしゃったんですね」

「え、あ、はい。……その……」

「瀬尾さん、何度か一人でいらっしゃっては指輪を選んでいたんですよ」

「……」

横にいる夏弥は、苦笑しながら私の肩を抱き寄せた。

「ま、そういうことだ」

くすくす笑いながら言い放つけれど、どこか照れているのもわかる。

「花緒の家で会ってからすぐに、この店に来て選んでたんだよ」

「え?あの日に会ってって、え?そんなにすぐに?」

「くくっ。すぐも何も、俺は花緒の事を何年も見てたんだ。ようやく実際に言葉を交わせて、一気に気持ちが動くのを止められなかったんだよ」

あー。そうなんだ、と心で呟いて思わず俯いた。

夏弥が紡ぐ言葉がやけに甘くって、どう受け止めて応えていいのか困る。

恥ずかしいし照れるし、目の前の店員さんにどう思われてるのか気になるし。
肩の上の夏弥の体温だけに意識が集中して、こころもとない。とにかく照れる。

目の前に並ぶ、ゼロがやたら多い商品に、意味なく視線を落として気持ちを落ち着けた。
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