週末の薬指
自分が一人でしっかりと生きていくためには、仕事をちゃんとこなして、自分の足元を経済的に固めなきゃと思いつめてこれまで生きてきたから。

やっぱり『仕事』と言われたら、我慢しようって思ってしまう。

だから、美月 梓との関係に不安はかなりあるけど、私一人我慢すればって、言い聞かせてしまう。

「俺は、不安でたまらないんだ。花緒の気持ちが揺れないように必死だ。
だから、週末も抱き潰しただろ?」

「抱き潰し……って、こんな明るいところでそんなこと言わないでよ」

真っ赤になって慌てる私にくくっと笑った夏弥は、それまでの歩みを少し緩めたかと思うと、

「ここだ」

そう言って立ち止まると、目の前のお店を見上げた。

「え……?ここって、え?」

私たちの目の前にあるのは、雑誌でもよく見る有名なジュエリーショップだった。

芸能人も御用達で、会社の後輩の女の子達もよく騒ぐお店。

「入るぞ」

私の手を引っ張って、さっさとお店に入る夏弥にひきずられるように、私も店内に足を踏み入れた。

明るく輝きに溢れた雰囲気に目を見開いて、まじまじと見回していると、そっと耳元に夏弥の唇が寄せられて。

「俺が不安にならないためにも、指輪買うから」

熱い呼吸とともにささやかれた。
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