週末の薬指
いつものように残業を終えて、会社を出たの時は既に22時を回っていた。

慣れているとはいえ、月曜からこの忙しさだとげんなりしてしまう。

疲れた体で二日ぶりに家に帰ると、なにやらばたばたと音がする。

こんな時間なのに、おいしそうな匂いもする。

私が帰ってくるから何か用意してくれている、とは思えない。

「おばあちゃん?」

キッチンでせわしなく動くおばあちゃんは、何かを味見しながら振り返ると

「あら、瀬尾さんの部屋に泊まってても良かったのに」

あっさりとそう言い放った。

昼間、そんな言葉を予想していた自分を思い出して、小さく苦笑した。

「何してるの?まさか私にごちそうでも?」

「そんなわけないでしょ。帰ってくるとも思ってない人の夕食を用意しておくほどいいおばあちゃんじゃないのよ」

「……だよね」

やっぱり、そうか。と思いながらもお腹はすいている。

おばあちゃんの横に立ってお鍋をのぞくと、ぐつぐつと人参やお揚げさん、こんにゃくがいい感じで煮詰められている。

甘辛い匂いに空腹も増してくる。

「もしかして、お稲荷さんでも作るの?」

「そうだよ。明日近所の人達が来るから下ごしらえしてるんだ」

「あ、編み物?」

「そう。編み物教えてあげるんだけど、まあ、みんなでホームパーティーまがいのことをやって楽しむんだけどね」

くすりと笑うと、お鍋の火をとめた。そしてお米を研ぎ始めたおばあちゃんに

「お稲荷さんはいいんだけど、何か私が今食べられるものってない?お腹すいてるんだけど」
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