週末の薬指
緩やかな坂道を登り切ったと同時に見える、赤茶色の寄棟の屋根。
気持ちを温かく和ませてくれるような色合いは、おばあちゃんの温かい人柄を表しているようだ。
悲しい気持ちや苦しい気持ちを抱えながら坂道を登り切ったと同時に目に入るその色は、私の気持ちを穏やかにしてくれる。私を優しく迎えてくれるその屋根とおばあちゃんの笑顔。
それだけの為に帰ってくると言っても大げさではなくて。

「復活復活」

気持ちを浮上させるように独り言を言いながら、歩みを速めた。

「ただいま」

玄関を開けると、目に入った靴。
汚れひとつなく磨かれた男性用の革靴が、綺麗に揃えられていた。
おばあちゃんと私の二人暮らしのこの家には、もちろん女性用の靴しか置いてないはずで、普段見慣れない大きい靴に、驚いてしまった。

誰かお客様でも来ているのかな。いつも残業ばかりで、こんなに早い時間に帰宅する事なんて滅多にないせいか、おばあちゃんの生活リズムを知らない自分に気づいてしまう。

< 3 / 226 >

この作品をシェア

pagetop