週末の薬指
「あ……俺、結婚するんだ」
突然、何を言い出すんだろう、この男は。知ってるよ。
「彼女、私の後輩だもん。知らないわけないでしょ。それに、悠介自ら社内でその事言いまわってるんだから、改めて私に報告する事ないでしょ」
悠介の横を通り過ぎて、会議のある部屋へと向かう。
すると、私の横に並んで、悠介がついてくる。同じ会議に出るんだからそれは不思議じゃないけれど、離れて欲しくて仕方ない。
「なあ、噂って本当なのか?」
足早に歩きながらその言葉に視線を移すと、悠介が神妙な顔をしていた。
「噂って何?」
「あー。花緒にオトコができたって聞いたんだけど……。本当か?」
悠介が言う『噂』がその事だとは予想していたけれど、あまりにも直球で聞かれると何だかおかしくなる。
「本当だよ。それがどうかした?」
「え、いや、社内ですごい噂になってるし、今朝もオトコの車からおりてくる花緒を見たって……あいつが」
「あいつって……?ああ、みちるちゃん?」
「そう。かなりいいオトコだって言ってたけど。……大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、その……」
私のことを心配そうに見つめながらも、悠介の瞳からは怯えのようなものが感じられた。
付き合っている時には見なかったその瞳の色に、少し違和感を感じる。
「私が誰と付き合おうと、どう生きていこうと悠介には関係ないでしょ?
みちるちゃんとの結婚が近いんだから、私と一緒のところを見られたらまずいんじゃないの?」
これからの会議にみちるちゃんは出席しないけれど、社内の多くの人が私と悠介の以前の関係を知っている。
結婚前に、不要な噂でもたってみちるちゃんの気持ちを不安にしたくない。
私と悠介が別れた後に入社したみちるちゃんは、悠介と付き合い始めた時に、社内の噂と悠介の口から私との関係を聞かされて、かなり動揺していた。
私から悠介を奪ったわけじゃないし、フリーになった悠介からみちるちゃんに近づいて彼女にしたと聞いている。
だから、悩む必要はないのにみちるちゃんは私に対しての遠慮をずっと持っている……。
そんな遠慮って、逆に人を傷つけるんだけどな……。
「みちる、喜んでるんだ。花緒に恋人ができて、ようやくほっとしたって」
「は?」
「いや、ほら、俺だけが幸せになったら申し訳ないって、俺も思ってるし、みちるは優しいから……自分が悪いわけじゃなにのに花緒が幸せになれないのを見てるのはつらいって、ずっと言ってたからな」
「……」
「だから、花緒にオトコができて幸せになったのなら嬉しいってほっとしてたんだ」
悠介は満足げに小さく息を吐いて、頷いた。
突然、何を言い出すんだろう、この男は。知ってるよ。
「彼女、私の後輩だもん。知らないわけないでしょ。それに、悠介自ら社内でその事言いまわってるんだから、改めて私に報告する事ないでしょ」
悠介の横を通り過ぎて、会議のある部屋へと向かう。
すると、私の横に並んで、悠介がついてくる。同じ会議に出るんだからそれは不思議じゃないけれど、離れて欲しくて仕方ない。
「なあ、噂って本当なのか?」
足早に歩きながらその言葉に視線を移すと、悠介が神妙な顔をしていた。
「噂って何?」
「あー。花緒にオトコができたって聞いたんだけど……。本当か?」
悠介が言う『噂』がその事だとは予想していたけれど、あまりにも直球で聞かれると何だかおかしくなる。
「本当だよ。それがどうかした?」
「え、いや、社内ですごい噂になってるし、今朝もオトコの車からおりてくる花緒を見たって……あいつが」
「あいつって……?ああ、みちるちゃん?」
「そう。かなりいいオトコだって言ってたけど。……大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや、その……」
私のことを心配そうに見つめながらも、悠介の瞳からは怯えのようなものが感じられた。
付き合っている時には見なかったその瞳の色に、少し違和感を感じる。
「私が誰と付き合おうと、どう生きていこうと悠介には関係ないでしょ?
みちるちゃんとの結婚が近いんだから、私と一緒のところを見られたらまずいんじゃないの?」
これからの会議にみちるちゃんは出席しないけれど、社内の多くの人が私と悠介の以前の関係を知っている。
結婚前に、不要な噂でもたってみちるちゃんの気持ちを不安にしたくない。
私と悠介が別れた後に入社したみちるちゃんは、悠介と付き合い始めた時に、社内の噂と悠介の口から私との関係を聞かされて、かなり動揺していた。
私から悠介を奪ったわけじゃないし、フリーになった悠介からみちるちゃんに近づいて彼女にしたと聞いている。
だから、悩む必要はないのにみちるちゃんは私に対しての遠慮をずっと持っている……。
そんな遠慮って、逆に人を傷つけるんだけどな……。
「みちる、喜んでるんだ。花緒に恋人ができて、ようやくほっとしたって」
「は?」
「いや、ほら、俺だけが幸せになったら申し訳ないって、俺も思ってるし、みちるは優しいから……自分が悪いわけじゃなにのに花緒が幸せになれないのを見てるのはつらいって、ずっと言ってたからな」
「……」
「だから、花緒にオトコができて幸せになったのなら嬉しいってほっとしてたんだ」
悠介は満足げに小さく息を吐いて、頷いた。