週末の薬指
今思えば、悠介が私の出生の事情を触れ回った事が発端であることは間違いない。

私と別れた事を正当化するためにしたその事実を知ったのは最近で、それ以来悠介に対して残っていた未練のようなものはきれいさっぱりなくなった。

別れた後も持っていた雄介への思いの本質は、未練なのか、幸せだった時間への回顧なのか。

それとも、私も幸せになれるかもしれないと盲目的に信じていた頃への執着だったのかもしれない。

そんな思いをすっきり捨て去る事ができたのは、夏弥との出会いがあった故に違いない。

『花緒のお父さんには感謝している』

そう言ってくれた夏弥によって、生まれてからずっと私を苦しめていた呪縛が緩んだ。

私はこの世に生まれてくるべきではなかったのではないかという、苦しみだけの呪縛から解かれた気がしている。

ようやく自分を素直に受け止める事ができて、笑って未来を考えられるようになったのに、水を差すような会議。

悠介と向き合わなければならない会議への出席が、本当に嫌でたまらなかった。

そんな、後ろ向きな感情を抱えながら上層階にある会議室のフロアに向かった。

エレベーターからおりて、小さくため息をつきながら会議のある会議室へと視線を向けると。

「久しぶり」

「あ、うん。お疲れ様」

私を待っていたのだろうか、目の前には悠介がいた。

相変わらずの爽やかな笑顔で私を見つめる瞳は不安げに揺れているように見える。
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