本編 そんな簡単に、言うこと聞いてくれないでしょ?
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 ゆとり世代の彼は、残業の時間も昼間と変わらずデスクチェアに腰かけて足を開き、堂々たる態度で自分なりに部長の評価をしていく。
「僕はあぁいうのは違うと思います」
 じゃあ部長の仕事をやってみろ!と言いたくなるが、真剣に仕事をすればそれくらいできる能力はある彼なので、その話には乗らずさっと資料を渡した。
「はいこれ」
「あ、ありがとうございます。あ、そういえばこの前、三船さんが駅前のケーキうまいって言ってましたよ」
 身長180センチ、体重65キロ。色白で切れ長の目、通った鼻筋に、少しふっくらした唇。スイーツなどの女子が好みそうな情報が好きらしく、清潔感もある彼はあらゆる女性に好かれる好青年だった。
 だからといって、私は好きではない。同じ部署でデスクが隣のため、よく話はするが、彼にとっては他の一女性と同じだろうし、こちらも、特別な感情は抱いていない。
「ふーん、何がおいしいの?」
「ケーキとかアイスが乗ったプレートが、安くてうまくて有名なんです。今度行きます?」
 今まで隣のよしみで何度も休憩中にランチには行ったことがある。だがプライベートは初めてだ。
「君なら運転してくれるよね? じゃあいいか」
 私はどちらでもいいかと言うように、軽く答えた。
「運転くらい、しますよ」
 そして、笑い返してくれる。
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