絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 2人は榊が案内する徒歩5分の小さな洒落た店に入り、空いているテーブルに落ち着いた。
「へえー、こんなところがあるんだ。穴場だね」
「うん、味がいい」
「あ、あっさり系?」
「それが日本のパスタのいいところ」
 榊はメニューも見ずに2人分勝手に注文すると、すぐに話しを始めた。
「ところで、エレクトロニクス、大丈夫だったんだ」
「ああ、先に、ありがとう。診断書書いてくれたんだってね」
「ああ、そんなのはどうにでもなるから」
「(笑)、怖いなあ。今はね、ホステスやめたの。けど、まだエレクトロニクスでバリバリ働く気にはなれなくてね、とりあえずレイジさんの事務所でバイトすることに決めた。
 あ、そーだ、夕ちゃん診断書の話、知ってるの?」
「……いや」
 榊は少し視線をずらして、答えた。今ハッとしたようだ。
「(笑)、なんかさ(笑)、あの夕ちゃんが、榊も心配してると思うから一応連絡した方がいいって言って。何で夕ちゃんに診断書の話しなかったの? 後で聞いたら絶対怒るよ」
「医者には守秘義務があるからな、そうそう簡単には喋れない」
「怒るよー、完全に」
 香月は歯を見せて笑った。
「まあ、夕貴の怒りくらいで全てが丸く解決できるんなら、ばんばんざいだ」
「(笑)」
 しばし2人は目の前に並べられた料理の感想を述べながらそれだけに集中する。グルメな榊が選んだ店は、さすが納得のいく味だった。
「ところで」
 食後のケーキは香月一人だけが食べている。ああそういえば、このスタイルもいつものことだったなと今さら懐かしく思えた。
「うん……何?(笑)」
「いや……。まあ、元気そうで何よりだ」
「うん……まあね」
「……この前愚痴吐かれたよ」
< 101 / 423 >

この作品をシェア

pagetop