絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 香月はこちらの気持ちをもちろん知らずに、バックから二千円出すと、テーブルの上に置いた。何故か慌てて朝比奈も五千円出す。
「えっ、2人で帰るの?」
 誰の声だか分からないくらい、朝比奈は焦っていた。
「え?」
 香月がこちらを振り向いた。
「えっいや、そんなまさか、僕は用事があるし、香月さんも……」
 まずい、こんなしどろもどろになってどうする!!
「あ、電話だ」
 香月がどう反応するか見たかったのに、それは香月の携帯から鳴り出した電子音によって、完全に遮断された。
「あ、もしもし。ちょっとごめん」
 香月は電話の相手に断ってから、
「すみません、お先、失礼します」
と、出て行ってしまう。……まさか、電話の相手、宮下部長じゃないよな……。まさかそのためにあの人飲み会欠席したんじゃないよな。
「うん、今ね、会社の人と飲みに来てて……え……うん、そうなの? なーんだ……そうなら……ううん、うん、いつ? ……じゃあまた、連絡して? うん、えー。なんだっけ? テレビで見た気がするけど……。うん、うん、うーん。うん、分かった。じゃね、連絡、待ってる」
仕方ない。盗聴するつもりはなかったが、店の通路が狭く、ずっと後ろについて入り口に戻るはめになったため、電話の内容全てが聞こえてしまったのだ。
 彼氏……か? どうも宮下ではないようだ。
 噂によれば、以前はリムジンで会社に乗り付けて来たことがあったらしく、金持ちの彼氏がいたんだろうということだが、その長期休暇によって、結婚&スピード離婚という説が一番しっくりくる気がしていた。
 玄関を出てついに彼女と並び、挨拶をして別れるしかないようである。
 だが彼女は待っていた電話を今終わらせてしまったことへの不満なのか、つまらなさそうに、
「まだ9時だったんですね……明日休みなのに」
 え……。誘われてる!?
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