絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
 紺野は突然胸ポケットから一冊の黒い手帳を出した、かと思うと、それを縦に開いて中身を見せた。
 見たことはある。ただし、テレビで。黒いレザーの中には、半分に折り曲げられた下の部分に、紺野の顔写真と、金色の花形の飾りがついている。菊の御紋……一番にそれが頭に浮かんだ。
 名前は芹沢奏……かなで? それとも、そう、だろうか?
「あなたには私のこと、伏せていました。実は、警察です」
 巽から情報は得ていたので、もちろん全く驚かなかった。
「……え……ああ……」
 としか、返答のしようもない。
「同じく南田です」
 隣のメガネが言う。紺野よりは年上に見えた。こっちが上司だろうか。
「新人の坂上です」
 30半ばのおばさんで新人?? まさか……ふけ顔ってことじゃないよなあ。
 と、とりあえず3人確認してから、紺野の顔に戻った。
「すみません、私たちは、巽光路のことで捜査をしています。
 今、彼が手配したと思われる銃を使って、誘拐立てこもり事件が起きています」
「!?……」
 紺野は小さく頷き、周りを警戒した。
「この誘拐事件に巽光路が関与していることは、間違いありません。巽が雇った手下が人質を誘拐し、行方をくらましています。われわれは、今全力でその犯人を追っていますが、まだ見つかっていません。だから、その周辺も当たっているのです」
 巽の周辺で拳銃を見たことがあるのは、ただ一度……。だがあれは、護身用にしては大そうすぎる腕前と状況だった。
 過去のことを思い出し、真剣に考えていると、自分の髪の毛が揺れているような気がした。心臓の音で……体が震えている……。
 長い、長い沈黙が続いた。
「……関与って、間違いないんですか?」
 ようやく紺野との会話を思い出して、口を開いた。
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