絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「この前、偶然副社長と話す機会があって、直談判しましたよ。もう、辞めてもいいやって気持ちで」
「すごいね!」
 今井は大げさに笑った。
「けど、今の人事に間違いはないから、ここでいなさいって言われました」
「はあー、まあねえ……」
 今井はそうでもなさそうだ。
「私の中では勝負賭けたつもりだったんですけど……」
「けど、店舗より本社の方が何かとよくない? 私、あの制服嫌いだけどなあ」
「制服(笑)。は別にあれですけど。なんというか、昔が楽しかったからかなあ……。良かったですよ、宮下店長だったときが一番。フリーで好きにさせてくれて。だから、吉川店長の下でやるとなると、ちょっと違うかもしれませんけど」
「ねえ、宮下部長と付き合ってたってほんと?」
 香月は一瞬表情を崩してしまったが、すぐに戻した。
「そんなまさか! ……タイプが違います」
「ああ……まあ、そうか……」
 榊と宮下は明らかにタイプが違うと言いたかったのをどうやら飲みこんでくれたようだ。
「今ってさ。彼氏いるんでしょ?」
 今井は仕事のことには納得したのか、随分興味ありげに身体を乗り出してきた。
「うーん、一応……」
「ああ……、奏ちゃんのこと、ごめんね。事件のことに必死みたい」
 今井の中ではどうでも良い話になったのだろうが、香月の中でも既にどうでも良い話であった。
「いいえ……そんな、今井さんは悪くないです。私こそ、あんな電話して、すみませんでした」
「それはいいんだけど……。なんか、彼氏のことを、奏ちゃんが追ってるって聞いたけど」
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