絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

どうして…

 時々、考える。
 巽と自分はこれからどこへ向かうのだろう。
 ゴール、なんてない。
ならば、いつかは、離れてしまうのだろうか。
 溜め息はいくつついても、足りない。
 仕事が満足にいき始めると、次の悩みが待っている。人生とは、そんなものなのだろうか。
「ごめんね、……反省してる」
「え……何をですか?」 
 初めて、今井に2人きりの飲みに誘われたのは、仕事にやる気を出した、2週間後のことだった。仕事帰りにダイニングバーなど、もう随分行っていない。
 テーブルを真ん中に今井は軽い酒を飲み始め、今日は泥酔しない方向で話をするんだな、とほっとした。
「なんか……香月さん、仕事好きじゃないのかなあって……」
 その言葉で、阻害されていたことを確信した。が、もう過去の話だ。
「いえ……」
 悪いのは、周りではない。仕事を疎遠した、自分にある。
「けど、牧先生とのこと聞いて、大変だったんだね」
「え、何ですか?」
「牧先生に誘われて大変だったんでしょ?」
 宮下はどうやらそういうことにしたようだったが、うん、とも、すんとも言いがたい。
「いえ、誘われて大変、というか……。そもそも、牧先生とは知り合いだったんですよ」
「けど、迷ってたんでしょ? 分からないでもないけどね……」
 確か、今井は好みのタイプだとか言ってたな……。
「すみません……。わざと、じゃなかったんですけど、どういえばいいのか、なんというか、私、そもそも店舗に戻りたいので……、ストライキともいいますか……」
「あ、そーだったんだあ。そっちかあ。じゃあ全然違うじゃん。なんか皆色々言うからさ。牧先生に誘われて、というか、気に入られてるから、天狗になってるっていう……感じで」
「え、天狗って……そんな偉い人じゃないでしょ? いや、知らないけど……」
「そんなことないよ、有名な建築家だからね……」
 今井は、自分で納得をしながら、グラスに口をつけた。
「店舗……戻れないかどうか、聞いてみたら?」
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