絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
♦ 簡単に、「そうなんだ……」と言ってとりあえずの解決らしき道を見つけてしまったが、病室を出るなり溜め息が出た。一度、駐車場まで戻ろうかと考えたが、この病院は広すぎる。第一、子供がおなかがすいたと、待っているのだ。
 香月は、急ぎ足で病院から出ると、携帯電話を耳に当てながらすぐ外のコンビニに入った。
「もしもし、ごめん。今病院の外のコンビニに行ってるんだけど、今日はちょっと無理かもしれない」
『どうした?』
 背後は静かだ、大人しく車で待っているのだろう。
「子供は保育園に預ける預けるみたいだけど、千さんの子供じゃないかもしれないとか言い出して。しかも、私が知ってる人だとか言うから、もしかしたら会社の人とか絡んでるかもしれないし」
 言いながら、巽には何も関係がない話なので、聞いても分からないか、と思い直す。言うだけ無駄だ。
「だから、家に帰ってて。ごめん。私も……今日中には一度帰るし。……帰れると思うし」
 今の佐伯はうちのルームシェアの居候の身分だ。ということは、私が荷物などを持ってこなければならないし、手続きもいるかもしれないし、色々、ただでは済まないかもしれない。
『手伝おう』
「……え、何を?」
言いながら、サンドイッチとパン、お茶、ジュースを籠の中に入れ、続いてチップスターを探す。
「あ、そうか。あなたの車でここまで来たんだっけ。でもいいよ、バスで帰れるし」
 オレンジの筒も中に入れる。後は、レジだけ。
『家に帰っても、仕事はしないと決めている。車で待っているのも同じだ』
「あ……、そう……ごめんね、私のことに巻き込んで」
『この一週間はお前に付き合うと決めていた。くだらないことでも、何でも言え』
「……ありがとう」
 レジの店員がバーコードをどんどん読み取っていく。それくらいのスピードで、世の中の物事が、全部解決できればいいのにと思いながら、電話を切った。

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