絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ

4日目

 佐伯の体調はずっと落ち着いていた。いつ退院になるか、まだ目途は経っていなかったが、娘の愛花も元気そうだし、しばらくはここでのんびりテレビでも見ていればいいのではないかと香月は勝手に思っていた。
 それくらい、佐伯の元気は良かった。
「ご飯しないって幸せ~」
 佐伯は会う度に言う。外食、ユーリの手づくりが基本になっている香月は、その気持ちがあまり分からないが。
「けど自分が好きなメニュー出ないじゃん」
「でもまあまあ美味しいですよ。それに、動いてないのに太らないんですよ、やっぱちゃんとカロリー計算されるんですね」
 ベッドの上でゴロンと寝転がり、足を広げるだらしない恰好だが、まだ腹は大きくなってはいない。
 そもそも香月は、この子供を産むのは何故だろうと少し疑問に思っていた。
 既に子供が産めない香月には何も分からないが、父親が誰か分からない、そして、収入もない、しかも、既に子供が1人いる状態で、産む決意をした母親の気持ちといとうものは、外側にいても何も通じなかった。
 携帯電話が禁止されている室内で、佐伯のバイブ音は小さく鳴る。
「……」
 佐伯が画面を見たまま黙ったので、メールかな、と香月はテレビに視線を向けた。
「西野さんが来ます」
 香月は慌てて佐伯の顔を見た。
「先輩もいてくださいね、もう来ますから」
 逃げることができないのなら、隠れたかった。
「えっ、あの、佐伯、あの……知らないかもしれないけど、あの……」
「知ってますよ、会社辞めたこと」
 そりゃそうだろうなと、一応安心する。
「…………」
 佐伯はこちらを見ずに、テレビに集中しているフリをしているが、どう見ても、懲戒解雇の身代わりの件で、納得いっていないに違いないと思えて仕方なかった。
 身代わりになってくれることを佐伯は望んでいたのかもしれない、そう思うと、切なさがこみ上げ、ただ静かに目を伏せるしかなかった。
 カタンと、静かにドアがスライドする音が聞こえる。
 深呼吸して、そちらを見ようとしたが、その前に
「誠二」
という、聞いたことのない呼び名が聞こえ、佐伯の顔を見つめた。
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