絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅳ
「別に、犯罪を犯したわけじゃないから……大丈夫」
「そんなことを聞いてるんじゃない」
「私は、あなたにお金を返すことが仕事です。だから別に、それがどんな方法でも、かまわないはずです」
 泣きながら言うくらいなら、そんな方法にしなければいいのに。香月がいつも無理をすることを、巽は自分のことのように苦しんできた。
「バカが……」
 思い余って抱きしめた。限界だったのは巽の方だった。クラブから連れ戻し、アパートに住まわせ、香月の思い通りにしてやることに、一番心を痛めていたのは、巽の方であった。
「もういい、もう十分だ!」
 香月は黙っていた。
「もうお前を自由になどさせん。絶対に、俺から離れられないようにしてやる」
 そして、彼女の顔を見つめた。
「いいか、よく分かっただろう。俺がいないと何もできないことが。俺が側にいないと、生活できないことが」
「……」
 溢れるほど涙を溜めた大きな目を逸らした香月を、巽は力ずくで抱き寄せた。
「帰るぞ、うちに」
「うち……?」
「俺とお前の家だ」
「……どこ?」
「新東京マンションだ」
「私……でも……」
「もういい、もう何も言うな。もう……何も言うな……」
 思い切り力を込めた。このまま、彼女がこの腕の中で死んでもいいと思えるくらいに。
「痛い……」
 泣きながらも、彼女は笑う。
 そうだ、お前は些細なことで大げさに笑い、口先を尖らせ、拗ねているのが、一番いい。
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