エスメラルダ
 レイリエとエスメラルダは二つしか違わない。
 レイリエ・シャロン・ランカスター。
 当年十八を数えるこの美少女はランカスターの異母妹だった。銀の髪に青い瞳。瞳の色はランカスターに比べて若干、薄い。
 エスメラルダは年下であるのに、このレイリエの義理の姉になる事が嫌で仕方なかった。
 レイリエが異母兄に恋慕している事を知らぬのは当のランカスターしか居なかったから、というのも勿論ある。が、好戦的で他人を見下したようなその性格が生理的に受け付けなかったというのもある。
 女というものは姑、小姑には良い感情を抱かぬものだとよく言われるが、レイリエはエスメラルダにはっきりと敵意を持っていた。

『貴女なんてお義姉様と認めないわ!』
『お兄様には相応しくないわ!』

 レイリエの投げつけて来た罵詈雑言だったら幾らでも脳内で再生出来た。所謂耳にたこというやつだ。
 勿論、ランカスターが一緒にいない時だ。
 レイリエは、兄の前ではまるで上品な子猫のように愛らしかった。そう、愛らしかったのだ。エスメラルダもその点は認めなくてはならない。
 だが。
 レイリエの裏表ある性格はランカスターには通じないだろう。レイリエの背伸びした衣装にも目もくれないであろう。
 ランカスターはうつろうようでうつろわぬ大自然のようなものを愛した。例えば森や大地、天空にある太陽や月。もしくは獣。
 強く、泰然とあれ。何者にも縛られず、自由であれ。恐れるな。媚びる必要はない。お前は恵みを垂れる女神のように笑うがいい。
 そう、エスメラルダは教育されなおした。
 ランカスターは白粉臭い女達(所謂淑女と呼ばれる女か、もしくは娼婦)が嫌いだった。何の変化もないつまらないものだと見下していた。

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